彼方の岸を「彼岸」と呼び、こちらの岸辺を「此岸」と呼ぶ。いずれにしても此方を主体とした呼び方である。しかし芸術表現は時として、彼方の岸から此方の岸の情景を見せることも出来れば、此方の岸から軽々と彼方の岸へ飛躍しその情景を見せることも出来る。それはあるときは人間の煩悩世界へ没入した客観的風景となり、又、あるときは煩悩から解脱した虚空の風景となる。芸術表現とは彼岸と此岸の間に横たわる大河であり、それぞれの風景を垣間見る窓のような存在だと考えられます。そこから我々は目に見えない時空の存在と一個の肉体が入滅する瞬間を想うことが出来、初めて死を起点とする生への執着と“たゆたう”儚さを感じることが出来るのだと考えるのです。
(Program Director 上山潤)